北へ

桜は散り、蒼い葉を茂らせ、かつてあった場所の、かつてあったものを押し流す。

しばらくすると北には死んだはずの桜が満開という便り。

8月は去り、冷たい無垢が吹き、かつてあった場所の。かつてあった物を洗い流す。

しばらくすると北の方角に名残惜しげな積乱雲。

死んだ思いは北へ帰っていくのだろうか?

南住まいの俺には北のことなど真偽を確かめるすべが無い。

ただあるのは北に帰った思いの置き土産、妄想だけ。